野菜の安売り合戦 Vol.2


前の記事で、「安売り」というのは、戦略的にあえて限定的に行う場合以外は、売り手である企業のスタッフや経営者のみならず、彼らが一転して買い手として振る舞う場合の「消費者」にとってもメリットがなく、皆がこぞって不幸に陥る最悪のパターンという話をしました。

逆の表現をすれば、「値上げ」によって企業側のスタッフや経営者に精神的・経済的なゆとりが生まれて、潤沢な利益から、将来お客さんに提供するモノ・サービスの質をより向上するための努力を行うことができるようになり、収入が増えることから買い手として、市場のモノ・サービスをより高い値段(本来の価値に見合った価格)で買うことができるようになって、経済社会全体として好循環が生まれるということになります。

こちらの記事では、卑近な例として、私が普段野菜を出荷している地元の直売所での話をしてみたいと思います。


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おそらく日本全国の農産物直売所で同じような現象が起きているとは思いますが、生産者が自ら値段を決定できるとはいえ、地産地消の直売所では同じ季節に皆がその旬の野菜を大量に出すために需給バランスが崩れて、売れ残りを出したくない農家の心理として赤字前提でも価格を下げて売り切るということが起こります。

私の地元の直売所でも登録生産者の平均年齢が80歳を超えていると言われていますが、老齢年金を受給していることから野菜を投げ売りしてもそれほどダメージがない一部の生産者により、逆に年金保険料を負担している若い世代の農家にとっては死活問題にもなっています。

では、私のような若い新規就農者は、そのような値下げ合戦に参戦して、より安い値段で薄利多売のビジネスを仕掛けてレッドオーシャンで勝ち抜くのが賢明な判断なのでしょうか。

 

私が就農した数カ月後に、地元のJA直売所に春の野菜(えんどうなど)を出荷するようになりましたが、その直売所の客層=安い野菜を買い求める客層と考えていたこともあり、ほぼ周りの相場と同じくらいの価格をつけて出していました。

しかし、なかなか売れません。さきほど書いたとおり、多くの生産者が一斉に旬の野菜を大量に出すため、需要に対して供給が大きくなりすぎ、各農家に与えられるパイは小さくなってしまいます。

珍しい野菜を作ったり、他の農家とは時期をずらして栽培・出荷したりする生産者ももちろんいらっしゃいます。ただ、方法論自体真似されやすいので、ブルーオーシャンを作り出せたと思っても簡単にレッドオーシャンになります

そこで、私がとった打開策が「値上げ」でした。


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その結果、当時はまだパッケージにも拘っておらず、今のように農園のロゴシールを貼ったりPOPを掲示するということもしていませんでしたが、値上げ前よりも販売点数が逆に増えるという現象が起きました

おそらく、その直売所にも「値段が高いからこそ買う」という客層が一定数存在していること、そして、値段が高いことで目を引き、コモディティ化している野菜の山のなかでひときわ目立っている、ということが理由として考えられるのではないかと思います。

直売所のルールとして、農薬を使用していなくても、それを掲示することはできませんでしたので、「農薬不使用」といったことも書いていませんでした。

結果として、絹莢えんどうや実えんどうを収穫終了期まで相場の1.5倍ほどで出荷し続けましたが、ほぼ売れ残りを出さずに売り切ることができました。

手応えを感じたことから、そのまま夏野菜(ナス・ピーマン・トマト・ズッキーニ・オクラ等々)でも相場の1.5~2倍の値段で出荷しましたが、少なくとも相場の値段で出すよりは全体の売上は多かったと感じています。

前の記事にも書いたとおり、値上げで売価を高く設定した場合、会計学的に利益はそれ以上の倍率で増えるので、同じ出荷にかかる労力(仮に販売点数が同じ)で、より高い利益が見込めたと言えそうです

労働集約型産業である農業(特に小規模な家族農業)では、おそらく真っ先に労働力が「ボトルネック」になると思います(制約理論TOC

いまや小規模農家でも農機の活躍で作業効率を大幅にアップできましたが、農機もタダじゃありません。イニシャルコストだけでも高額ですが、急な故障で修理が必要になるなど、ランニングコストも相当なものです。また、予期できない故障で農作業に大きな打撃を受けることもザラにあります。(機械を否定する趣旨ではなく、うちでも農機は使っています)。

話をもどすと、一次産業の農業は高度に労働集約型なため、薄利多売というビジネスモデル自体相容れないと考えたほうが良いということです。(一般論であり例外はあると思います)

「多」売で多くの労働インフラを必要とする(時間がとられる)割に、「薄」利でリターンが小さいため、そもそも持続可能性が低いと言わざるを得ません。

平たくいえば、「割にあわない」ビジネスモデルです。そして、日本では多くの農家がこのビジネスモデルで農業を営んでいます。よくテレビで御殿が建つほど儲かっている農家が取り上げられることがありますが、話題性があるので取り上げられやすいという側面はあると思います。

 

農家が自分で値段を付けられたとしても、単に総原価+当面の生活費に当てる利益で売価を決定するような考え方では、おそらく日本の農業に未来はありません。

家族経営の小規模農家とはいえ、事業者は事業者ですので、そこには当然「ゴーイング・コンサーン(継続企業体)」の前提が必要です。そのためには、売価には、将来コスト(よりよい商品を開発するために当てる投資)であったり、クリエイティブを生む余裕ある時間を生み出すための利益を加味して決定する必要があると感じています。

 

二極化してしまった所得層を平準化するには、まずは全産業で富裕層に適正な価格の商品を買ってもらい、それによって中小企業が潤い、そこで働くスタッフの給与レベルが上がって、余裕の出た支出で富裕層以外の所得者層も、行き過ぎた安売りではない、将来コストも含めた適正な価格の商品・サービスを買い求めることができるようになるという好循環がマストではないでしょうか。


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