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今回は、野菜づくりのやり方に関するホンネの部分を語っていこうと思います。
シンフォニアファームは現状、堆肥・有機質肥料を含めた一切の肥料、そして、天然由来のもの含めて一切の農薬をつかわずに野菜を育てています。
就農してはじめから100%肥料・農薬を使わないやり方で農業を始めるのはリスクの高いこと(一般的に例も少なく再現可能性が低いと考えられている)というのが一般的な認識です。
私自身もその点については理解しているつもりでいたので、就農前(研修中)は、少なくとも肥料・農薬を使う方法と使わない方法、半々くらいで始めようと考えていました。
ところが、研修先での2年間の研修も終盤に近づいてきたころ、肥料・農薬を使う農法も、それなりに多くの顕在的・潜在的リスクを孕んでいると感じるようになっていきました。
理由はたくさんありますが、たとえば以下のような理由です。
- まず第一に、当たり前といえば当たり前ですが、いくら事例数に富んだ慣行農法とはいえ、新規就農者である時点ではじめからそれがうまくいくわけではありません。新規就農計画というものを作成する際も、たとえば最終的な反収目標を「1」としたとき、1年めや2年めは「0.5」の係数を乗じて見込み販売高を計算します。慣行農法であっても、就農してしばらくは栽培技術の未熟さから反収は低いもの、という前提があります。
- 管理会計(経営判断するのに必要な情報を提供する内部的な会計手法、原価計算含む)的には、肥料(堆肥含む)や農薬を購入し、それらを散布する人的コストだけでも相当なものがあります。基本的に変動費になるので、固定費のようにスケールメリットによる単品あたりのコスト減が見込めず、限界利益率を上げることが困難です。個人的には農業であっても、限界利益率を高める(変動費率を抑制する)経営が重要だと考えています。もちろん小規模農家ですので、オーバースペック的な設備投資で身の丈にあわない減価償却費(固定費)を抱える(機械貧乏)のも避けるべきですが。また、化学肥料等地下資源に頼った農法では、将来それらが高騰したときにダイレクトに経営ダメージを受けるという大きなリスクがあります。
- これは個人的な考え方なので、別な考え方もあって然るべきですが、やはり肥料を人為的に与えれば土壌の栄養バランスを崩してしまいやすく、崩れたバランスを戻そうとして、またしても人為的に肥料を追加していくと、修復困難なほどに土の状態を余計に悪くしてしまう懸念があります。たとえウン十年クラスのベテランでも、ほとんどの慣行農法の農家さんでは、作物の病害や虫害、生理障害とは無縁ではありません。それだけ自然の生態系は複雑に運用されていて、人がおいそれと容易にコントロールできるたぐいのものではないと考えています。(それができる篤農家さんはいらっしゃるかもですが、少なくとも自分には全くもって自信がありません。。)
一方、無施肥栽培では微生物に作物を栽培してもらう考え方になるので、自然の共生関係のなかで自然と適度な養分バランスになると考えます。 - 上に関連しますが、人為的に施肥をするということは作物が弱々しく育ちやすいということだと思うので、病気にもかかりやすく虫にも食べられやすくなると思います。そうなれば農薬なしには収穫は見込めません。農家さんはあれやこれやと農薬を試し、虫や菌も適応能力を発揮して既存の農薬に耐性をもったりもします。もちろん散布して効果てきめんという場合もありますが、少なくとも100%思い通りに防除できるような夢のような農薬はないと思います。
慣行農法でも野菜を作っていくとなると、肥料設計や農薬のことも勉強しながら頭や時間を消耗することになりますので、全くそれとは考えの異なる無施肥栽培と同時並行でやることは、物理的に現実性がないと考えました。 - さらに健康面。農家自身の健康を考えると、農薬・除草剤を散布すること自体リスクがあります。場合によってはかなりの高濃度の農薬を皮膚につけたり口から吸ってしまうことがあるということです。
ゴーグルや厚手のマスクをつけて長袖長ズボン・・・そういう指導はありますが、夏場にそんな格好で作業すれば熱中症でぶっ倒れます。涼しい時間帯は収穫作業がメインなので、現実には暑い時間帯にそういう作業をしないといけなくなるのがオチだったりします。
私の知る限り、実際多くの農家さんは、わりと軽装で農薬散布をされているようです。 - 最後はセルフブランディング的観点から。新規就農者の私は、就農して数年間は直売所をメインに野菜を出荷させていただくことになりますが、バーコードのロゴには当然すべて私の個人名が印字されます。仮に慣行野菜と自然野菜の両方を作る場合、それらを直売所に出荷するとしたら、「私の個人名=屋号=自然野菜(無施肥無防投薬)」というイメージづくりはやはり困難になります。
自然野菜だけを買って頂ける安定した出荷先があれば別ですが、新規就農でいきなりそんないい話はありえませんので、どちらも直売所に出荷することになります。
慣行と自然の同品目野菜を同じ日に収穫して、それを別々に管理して別々に梱包・ラベル張りなどをする手間自体、無駄が多いと感じました。
こういった理由もあって、最終的には慣行農法では野菜を作らず、無施肥・無投薬での野菜のみに専念することになったわけです。。
いろいろ書きましたが、慣行農法を否定するつもりは毛頭ありません。あくまで、私個人のポリシーに合う方法がそれとは違ったというだけです。
最後に、もっと長い目でみたときの無施肥栽培のメリットについて言及します。
植物工場や大型機械をいくつも使う超広大面積農業は別として、いわゆる小規模農家というものが生き残っていくには、労働の手間を極力省いていくことは必至だと思います。
農業は言うまでもなく労働集約型の産業。これから日本の労働賃金水準がいくら上がっても、小規模農家は自分自身の体を使って利益を生み出さないといけません。
ドローンや収穫ロボットが登場してきていますが、小規模農家が手に入れるには現時点では高額すぎますし、手頃な値段で入手できるようになるのもまだ先のことでしょう。いくら安くなっても、トラクターや田植え機、乾燥機、コンバインなどで既に機械貧乏になってしまっている小規模農家も少なくないのが現状です。
だからこそコスト面でもっと身軽になるような栽培法への転換が待ったなしの状況なんだと考えています。農地集約化や薄利多売の方向だけでは世界で生き残れません。
また、化石燃料への依存からの脱却も避けられません。過去記事(「農業と脱炭素」)にも書きましたが、世界はすでに脱炭素の方向に舵を切っています。
窒素肥料などの多くは化石燃料から作られますが、不安定な中東情勢を挙げるまでもなく、化石燃料の単価はいつなんどき急騰するかもしれませんし、それに伴って、窒素肥料などの単価がいまの2倍・3倍になるということもありえることだと思います。そればかりか入手困難にでもなれば、慣行農法の持続可能性自体の危うさが露呈することになります。
リン肥料の原料になるリン鉱石さえ、現時点でほぼ枯渇しかかっているとも聞きます。
日本人消費者(生活者)の健康意識も、いつ大きく転換するかわかりません。2020年の東京五輪・パラリンピックを境に、多くの外国人の食に対する意識(オーガニック重視)に触れ、日本でも、「食」に対する考え方にパラダイムシフトが起きないとも言い切れません。鎖国しない限り、日本も世界の流れには抗えません。
そういった将来的リスクを見据えると、「慣行農法がもっとも一般的だから一番王道で無難だよ」とは言えない気がします。
かと言って、足元(短期的に)で食べていけないのでは本末転倒。
栽培面だけでなく、販売面でのマーケティングやセルフブランディング(シンフォニアファームのイメージの可視化や定着化)にしっかり力を入れていき、数年後には独自の路線で特定の顧客層をしっかりと取り込んで自立していかないといけません。